漢方博厚堂 山田高廣先生
漢方博厚堂はり治療院 山田智子先生
京都の整体院より「漢方薬と中医学に基づいた手技を組み合わせ治療の相乗 効果を高める研修」の講師として招かれていた2022年9月25日。滞在中の京 都にてインタビューを行う。
●山田 高廣プロフィール 1958年11月生まれ 臨床歴40年。90年以上の歴史を持つ薬局「山田薬局」を父 から継承し、現在は「漢方博厚堂」の院長を兼任。
管理薬剤師・薬局製剤製造販売許可 薬科大学卒業後、中医学・漢方の指導者として著名な故・梁哲周(ヤン・チョル チュ)先生の直弟子として研鑽を積む。
「漢方で治すことを極めたい」と鍼治療 の診断を漢方処方に反映し、治療の相乗効果を高める手法に特色がある。
●山田 智子プロフィール 1964年4月生まれ 臨床歴27年。2003年から港区にて、らくらく堂針灸院(現 在、博厚堂はり治療院)を経営。夫の山田高廣院長(漢方博厚堂)の漢方処方を 治療に取り入れた独自の治療を行っている。 ・厚生労働大臣免許 はり師・きゅう師(鍼灸師)、あん摩・マッサージ・指圧師、登録販売者 2001年よりミャンマーに渡航、鍼灸・あん摩指導を開始。バラメディカルサイ エンス大学理学療法科において、現地の保健省副大臣や保健省職員、大学職員、 現地の人々を中心に鍼・あん摩指導・治療を行う。
また、ミャンマー・マンダレー 伝統医療大学や、特定非営利活動法人AMDAと協力しミャンマー医療従事者に鍼灸・あん摩指導を行う。 2014年からのJICA草の根支援事業にも参加(現在はプロジェクト終了)。
博厚堂 山田高廣先生、智子先生 博厚堂は八綱弁証(はっこうべんしょう)という方法で病態を診断し、的確な漢方薬の処方と鍼治療を行い、即効性のある効果を実現しています。漢方と鍼の両 面で患者様を診断・治療することで、他の治療所にはできない早さで患者様の回復 を促し、極めて高い効果をあげています。
「急性病は一服二服、慢性病は三日で効果が表れる」とうたうその治療の秘訣は 何なのか? 夫である「漢方博厚堂」の山田高廣院長と妻「漢方博厚堂はり治療院」の山田智子院 長にインタビューを行い、漢方と鍼による治療体勢や陰陽の考え方について語って いただきました。 ̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶̶
※表示について
イ)=インタビュアー
高)=山田高廣先生
智)=山田智子先生
夫婦で漢方と鍼の併用治療を実践。中医学の考えに基づき顧客ニーズに個別対応 で応える総合的な治療を提供している。
治療家としての道のり
イ) お二人がこれまで治療家として歩んで来られた経緯を振り返りながら、漢方医学、治療についてお話ししていただけますか?
高) 私は東京薬科大学を卒業して2年くらいたった頃、ある会で漢方の勉強をしていた時に、先生が「漢方は大変かもしれないけれど腕が良ければ『急性病なら一服二 服、慢性病でも三日で好転します』」と言われたのを聞いて、「自分の生きる道は これだ!」と思ったのです。そしてすぐにその先生『梁 哲周(ヤン チョルチュ)師匠』 のもとへ弟子入りしました。
10年くらいたったある日、師匠に「山田、人間の身体(からだ)は何でできてい る?」と聞かれた時に、「細胞ですよね」と答えたんです。すると、もの凄く怒鳴 られて「細胞でできているなんて言ってるからお前はできが悪いんだ!窓から飛び 降りて死んじまえ!」って言われたんですよ(笑)。そんなキツイ言い方をする し、物は飛んでくるという厳しい先生だったんです。それでも「何としても治せるに なりたい」という一心で師匠について行ったんです。
イ) 身体は何でできているのですか?
高) 私たちの身体は陰気と陽気でできているのです。当社の赤と青のロゴに表現され ていますけど、万物は陰気と陽気でつくられているのです。地球が誕生した時に は、大地の陰気と太陽の陽気のふたつしかなかった。夜と昼も陰陽です。この地球 の陰気と陽気のバランスがとれたもの、暑さと寒さ 両方に耐えられるものだけが現在生き残っているん ですよ。 陽気は温めるエネルギー、陰気は冷やすエネル ギーです。病気はこの陰気と陽気のバランスのくず れです。漢方も鍼もこの“バランスのくずれを治す" というのが治療方法なのです。でも、世の中に大勢 いる漢方医や鍼師は、この陰陽のバランスのくず れが診断できないのです。だから治らないのです。 死んでしまうと身体の陽気は全てなくなって、陰気だけになる。最近の物理学でも陰と陽のエネル ギーはみつかっているんですよね。
智) 多くの漢方医や鍼師が陰陽の理論をベースに治療していないので、なかなか治 癒率があがらないのです。 陰陽論をしっかり勉強していないと治癒率は上がりにくい。鍼師も、もっと基本的な事を勉強して治療すべきなんです。正確に鍼を打てない鍼師というのは、 あん摩マッサージを重視して治療していないからだと私は思っています。つまり、 あん摩がプロ級にできれば良い鍼を打てるはずです。
高) 人間の身体には、気血水が流れている経絡というものが張り巡らされていて、そ こにはツボという場所がある。経絡を押したり揉んだりマッサージして細かく診て いると、何千人も身体にふれて診てきた人にはその違いが分かるんだけども、それ がわからない人は、患者さんの症状を聞いて、効果があるといわれているツボに単 純に鍼を打つだけなんです。 例えば肩が凝るという症状であっても、肩こりに効くというツボに打つだけでは なく、本当の原因はどこにあるのか探る必要がある。本当の原因は肝臓であった り、消化器であったり、身体をさわれば経絡の異常な場所がわかるはずなんです。 だから診断力がないということは、治療家としては致命的です。
イ) 経絡をさわって分かるというのは、どのような感覚なのでしょうか?
智) 言葉にすれば、腫れている、固い、熱を帯びてい るとか冷たい、などになりますが、言葉で表現でき ない微妙な感覚です。長い経験からさわって瞬時に 感じ取れるようにならないと、効果的な鍼は打てな いのです。ですから、按摩を徹底的にやればそれが とてもよく分かります。その感覚は、本当に指が変 形するくらい取り組まないと会得できないものなの です。
とにかく鍼師は
『1.あん摩をしっかりとやるこ と』
『2.漢方理論をしっかり勉強すること』
この二つが できれば、体調不良で悩んで いる人をもっと治せるはずなんです。
私は、2001年からボランティア活動でミャンマーに行ったことがすごく良かった と思います。現地の大学で鍼・指圧の普及をする活動なのですが、朝行くとミャ ンマーの要人や地元の人たちがずらっと並んでいて、10分とか15分とかで治さなけ ればならない。短時間で結果を出さなければならないという環境で、毎日毎日そこ で治療していたことがすごく役に立ったと思います。
高) 漢方医の場合も、この道を目指して20年くらいはなかなか治せないです。私自身 も漢方の勉強し始めて、治せるようになったのは40歳を過ぎてからです。いま、大学を卒業した人が漢方薬局で薬を出していますけど、大変だなと思います。きちん と合った漢方がなかなか選べない。選べるまでは相当な訓練が必要です。 症状と陰陽バランスについて
イ) 陰陽について教えていただきたいのですが、例えば、日本人の多くが苦しんでい る花粉症については、陰陽で言うと何が原因なのでしょうか?
高) 花粉症も陰と陽バランスのくずれなんですよ。まず発症時期ですね。寒い時期で はなく春一番が吹いて温かくなってきた時期の発症。これが一番多いですね。この タイプの人に「冷たいものが好きですよね?」って聞くと、「冷たいのは大好きで す」と言って、冬でもアイスコーヒーを飲んでいたりします。このタイプの人は身体 の中に熱をため込んでいるのです。運動して発汗すると楽になるんです。
杉の木も陰気と陽気でできている。陰気というのは根っこの方に多い。上の葉っ ぱの方に行くほど陽気が増えてきて、おしべは陽気の塊。温かい風が陽気を乗せ て、熱をため込んでいる人の鼻とか目とかに一気に入り込んで花粉症が発症するの です。だからこのタイプの人には身体の熱を取り除く漢方が有効です。
身体の中に湿気がたまっている人は雨が降ると調子が悪い。身体の中に冷えがあ ると冷房に弱い。身体の中に熱がある人は外の熱に敏感。このように身体と外の環 境は親和性があるのです。
寒い冬の時期に始まる鼻炎の場合は、温めながら発汗する(温めて汗をかいて表 面の冷えを取り除く)葛根湯などが有効です。このように身体の陰陽の状態を正確 に診断できないと、陰と陽のバランスをとる漢方は使えないということですね。
相当しっかりと陰陽について学ばないと本当の診断はできない、いつまでたって も漢方薬の手帳の効能を読んで薬を出すことになります。私もいまでは「治せる」 という実感が持てるようになりましたが、過去の治せなかった頃のカルテが山のよ うにあるのです。
その一つ一つのカルテを見直して、なぜ治せなかったのだろう? と長い間研鑽を積んできました。生半可な気持ちではなかなか到達できないです。
先日も、漢方薬局を転々とされていて、結果が出ないと いって当店に来られた患者さんがいたのですが、その方は『実証』でした。実証は、栄養が有り余っ て過剰になっている状態です。しかし、どこに行っても不足を補う投薬をされてい たためいつまでも治らなかったのです。
実証の場合は、有り余った物を取り除くこ と、流れを良くすることが大切なのに、その患者さんは『虚証』だと診断されて長い間 回復されなかったのです。
このように、完全に間違った診断で苦しんでおられる例 が多々みうけられます。
博厚堂の治療、ロゴについて
イ) 漢方薬と鍼・あん摩との連携について伺います。「漢方博厚堂はり治療院」の治療と「漢方博 厚堂」での処方は、具体的にどのように行われているのでしょうか。
高) 私のところでまず患者さんの問診を行って、陰陽バランスの診断をします。大局は分かりますが、細部については智子先生のところに行ってもらい、身体をさわっ て細かい診断を受けてもらいます。経絡は五臓六腑とつながっているので、どこが 虚している(陰気と陽気のどちらかが不足していること)のか、実証(陰気と陽気 が増えすぎている、過剰になっていること)はどこかを診断してもらいます。
過剰なところと不足しているところを平人(陰陽の調和を保っている人)に戻す のが漢方の役割ですので、さらに私のところで鍼の診断をもとに、より適切な漢方 を処方をします。
智) 陰陽バランスがくずれた方がたくさん来られますが、サプリメントにも注意して もらいたいです。サプリは良いものと思い込んで、みんな飲んでいますが、陰陽バ ランスも分からないのに一つのものを偏って取ることは賛成できません。自分の体 にとって過剰になっているものを、わざわざ足して飲んでいるケースがあり、それが 原因で病気になっていることもあるんです。
高) いまブームの「温めて治す」もそうですね。生姜を食べようとか体温を2度上げよ うとか言いますが、現代では熱をため込んでいる熱証の人が多いのでそのようなタイプには逆効果です。 漢方では、皮膚病、鼻炎、アトピーなど、赤くなるのは全部熱の吹き出し口だとみ るので、温めると悪くなる場合があるんです。むやみに「温めて治す」ことにも、 私たちは警鐘を鳴らしています。
イ) 安易に流行に流されるないよう気をつけないといけませんね。ところでロゴにつ いての解説をしていただけますか?
高) このロゴも陰と陽でできています。赤は太陽のエネルギーの陽気、青は大地のエ ネルギーの陰気。私たちが誕生する前には地球上に木火土金水という五つの気のエ ネルギーがあり、五つのエネルギーは人間の五臓と関連しています。これは、陰陽 五行というものです。ロゴの五角形は陰陽五行を表していて、つまりこの中に私た ちの思いがすべて込められているのです。
自然の中で生きている人は、陰と陽をごく当たり前に学んでいるんです。漢方の 本当のすごさを若い治療家の人たちにも知ってもらいたい。正しく診断できれば一 服二服で治るという素晴らしさを学んでもらい、正確な診断ができる人をもっと多く育てていきたいです。